審査員による講評 ヒーローの町はえばる

2015年1月31日 カテゴリ:未分類

 

赤嶺 政信(審査委員長)

 南風原町観光協会の方から「南風原町ヒーロー脚本賞」の審査委員への就任依頼を受けたときは、演劇や脚本の審査などに関わったことは全くないので、「専門外だから」とお断りをした。2回目に話がきたときには、時代考証の部分をお願いしますという話になっており、私の専門は歴史学ではなく民俗学なのだが、時代考証ならお役に立てるかもしれないと思い、引き受けることにした。
関連資料が極端に少ないなかで応募する人はいるのだろうかと思っていたので、13件という応募件数の多さに驚いた。初回の会議で13本から5本に絞り込む作業をしたが、自分と他の3名の委員(演劇の専門家)との間に大きな意見の相違がなくて一安心した。
優秀賞の「飛べ若人!夢をつかめ!」は、「飛び安里」が生きた時代ではなく現代の高校が舞台という異色な作品だが、比較的数の多い登場人物をうまく絡ませながら、物語がスムーズに展開していることが好印象となった。また、「飛び安里」のチャレンジ精神を現代の若者が継承することの大切さが感動的に伝わる点も良く、そのメッセージの表現にシマ言葉が活用されているのも良いアイディアだと感じた。
佳作の「飛び安里」は、周当と源次郎との交流を軸にした話で、話の展開に無理を感じないのが私には好印象だったが、同じく佳作の「イチャリバ飛び安里」は、いくつかの点で不満を感じた。「だーる」「ジョッピー」といった若者言葉が多用されていることもあってか、全体的にギスギスとした感じが気になった。また、津嘉山の綱引き場面を登場させたのはいいアイディアだと評価できるが、描写されている綱引きが、実際の津嘉山の綱引きの内容と合わない点がいくつかあるのは残念である。
特別賞の「飛び安里」は、会話がすべてシマ言葉仕立てになっている作品である。「自由(じまま)に天飛」、「天飛ぶる夢(いみ)」といった気になる用法もあったが、シマ言葉は概ね正確に用いられていると判断でき、この作品が将来的にシマ言葉の継承に役立つ可能性があることを評価した。さらに、周當のたゆまぬ努力と、家族や周囲の仲間の協力によって夢が実現していくという筋書きは感動的であり、津嘉山の大綱引きの場面とそこでの周當による花火打ち上げの場面を導入しているのは、地元性をアピールするのに効果的だと感じた。


富田 めぐみ(審査委員)

 優秀賞の「飛べ若人!夢をつかめ!」は、"飛び安里魂"を最も感じた作品。伝えられてきた飛び安里エピソードを戯曲に練り込んだ応募作が多い中、現代の青春群像劇が受賞となった。困難を仲間や家族と乗り越えていく姿、チャレンジ精神が飛び安里と重なる。演劇部の設定、起承転結に富んだ物語運びが見事。劇中劇で切り取った飛び安里ストーリーの分量、ウチナー口のバランス、台詞の練り上げ等を若干要するかと思うが、舞台化を期待する。
佳作の「イチャリバ飛び安里」はタイムスリップもの。周當(飛び安里)と現代から来た勇樹の会話が続く中、バジル・ホールが登場する。時代考証では疑問だがカタコト英語のユニークな場面になっている。ドラマチックな出来事ではなく、台詞で進める本作のような場合、より魅力的な人物像や台詞、フィクションとノンフィクションのバランスなどが問われる。特産のヘチマや綱引きなど、南風原地域の話題が多く盛り込まれた点は評価したい。
もう1点の佳作「飛び安里」は舞台イメージが鮮明な作品で、場所、季節、人物の衣装や髪型、美術、小道具などが具体的に示されている。周當が、花火師の仕事に真摯に向き合い、苦悩し、仲間や家族と共に困難な仕事を成し遂げていく過程が丁寧に描かれ、「飛ぶ」という大きな夢に対しても誠に真剣であることの証になっている。クライマックスの飛行シーンが、周當の独白によって説明調になっているところが惜しい。
特別賞の「飛び安里」は、全編ウチナー口の台詞。100ページに及ぶ作品中の漢字にはウチナー口の読み仮名が添えられ「次世代に正しいウチナー口を継承したい」という思いも感じられ感銘を受けた。家族や友人によって微妙に使い分けられる敬語・謙譲語やウチナー口独特の言い回しから、当時の関係性、コミュニティーの姿、哲学などたいへん豊かな時代性が感じられる作品。舞台転換が唐突な暗転・明転なのが残念。ウチナー口ネイティブ世代の旺盛な創作意欲に感服。
初めてのヒーロー脚本賞募集に、コメディー、ファンタジー、サスペンス・・・と多様な表現で多くの応募があったことはとても喜ばしい。今回、惜しくも入選を逃した作品の中にも、光るアイディアやキャラクターが見られ、人形劇やアニメーション映画にすると面白いかもしれないという作品もあった。応募者の年齢や職業も様々で、まだまだ多くの才能が花開く可能性があることを感じた。
偉大な脚本家・金城哲夫を輩出した南風原町で生まれた脚本賞を機に、次世代の脚本家の誕生、育成に期待したい。


真喜屋 力(審査委員)

 ライト兄弟よりも先に空を飛んだという歴史のヒーロー「飛び安里」の伝説をテーマに書かれた13本の力作に目を通した。そのほとんどが、当然ながら「飛び安里」本人の歴史的なストーリーを主軸に進行していた。
一方、優秀賞を受賞した国吉氏の作品『飛べ若人!夢をつかめ!』は、現代の高校生たちを主人公に設定し、彼らが『飛び安里』の演劇を演じるまでの姿を描いた現代の青春ドラマとして再構築されている。もちろん、そのユニークさが評価の対象になってはいるが、それは諸刃の剣でもあり、評価が割れた部分もそこにあった。しかし、他の作品と比較しても、『飛び安里』のもっとも魅力的な要素である〈飛ぶ〉という瞬間の高揚感がきっちりと描き出されており、素朴ではあるが現代のヒーローを描き出していたと言えよう。金城哲生誕記念ということもあり、県内外を問わず上演も期待できる、魅力的な作品として可能性を感じさせるものであった。
佳作となった村上氏の『イチャリバ 飛び安里』は、現代の子どもがタイムスリップして、飛び安里に空を飛ぶヒントを与えると言う作品。リアルな会話が突出して魅力的だったが、物語展開にムリな部分が多く、タイトルにもある『イチャリバチョーデー」というテーマも、具体的なエピソードがないままで、とってつけた感じになったのが大きな減点となった。また、長所のはずのセリフ回しに頼りすぎた感じがあり、アクションやエピソードがものたりない、密度の低い冗長な作品になってしまったのが残念だ。
もう一本の佳作、栄野川氏の『飛び安里』はクライマックスの飛行シーンが魅力的だった。しかし、飛ぶまでの盛り上げが成功していたかと言うと疑問点はある。さまざまなエピソードを工夫しているのだが、説明的なセリフが多く、ラストシーンまでが間延びしてしまっていたのが残念な一本だった。
さらに新垣氏の『飛び安里』は、全編を方言で執筆したということで特別賞を設定させていただいた。挑戦的な試みと、今後のコンテストでも同様の手法が生れてくることを期待しての受賞である。


新垣 敏(審査委員)

 応募13作という数は多くの皆様の関心の高さと興味をもって頂いた証拠であり、どの作品も飛び安里が書かせたであろうごとく強い意気込み気迫が感じられ、それが脚本の表情ある文字に表れていました。時には驚き笑い心をくすぐり、奇想天外な感性バトルの作品選定には審査委員として心躍るものがありまた。熱心に時代背景や史実に固執するあまり説明的な箇所も多少ありましたが、セリフ仕立て創作台本の難しさへ挑戦したという意味でどの作品に対しても称えたいと思います。
優秀作は高校演劇部員同士が「イキオイ」と「なんとなく」の両風船をはらんでいるかの様に、はじけそうで、そうならないもどかしさの印象もありましたが、次第に飛び安里神話のパズルに翻弄され、ぶつかりあっていく中で夢を膨らませていくイマ風の若者たちが投影されていたかと思います。劇中劇をとおして若人の夢をどう舞台表現されるのか新鮮味をもって期待したい。
佳作「イチャリバ」の少年たちが紙ひこうきを飛ばす入りは、なつかしい原風景を連想させ髙津嘉山の落とし穴にでも落ちてタイムスリップするのかと広い世界観へ希望を抱いて読んでいました。途中、キツイセリフ言葉がありましたが周当と勇樹が工夫しながら空への希望を見出すあたり、またバジルホールも登場させるワクワク感はユニークで面白い。 
もうひとつの佳作「飛び安里」は、少年期=カマド&ジロウが空へあこがれ成長とともに学問に励み努力を重ねる一方、たびたび事故にあう不運な男としての一面ものぞかせている。それでも屈せず公認の花火師として清国の船出演出を大仕掛けで演出し国王や大衆からの信頼と誇りを大成していく様は圧巻。花火師としての主役の位置付け、それぞれの登場人物もしっかり描かれ、ストーリー性もある作品かと思う。飛び安里として空から見たふるさとの描写も弁ガ岳、聞得大君がみえるといった表現は、自分も飛んでいるかの様で醍醐味感あふれる内容でありました。何よりタマシヌギタのは、あとで知った作者の年齢が81才ということ。物語、芝居仕立て、登場キャラ、構成展開など、大先輩に対してではありますが人間の感性は無限に一生成長し続けることに共感し、個人的に称賛の泡盛酌み交わしながらウチナー談義に酔いしれたいものであります。
特別賞作品は唯一全編ウチナー口で書かれた作品で作者の郷土愛シマーグワーへの気概、情熱、チムドンドン指数があがり称賛に値するものです。舞台作品のひとつとして郷土劇風にアレンジできる可能性を秘めた作品ではないかと思います。